目次
食物繊維とは
五大栄養素の一つである炭水化物は、糖質と食物繊維に分かれます。さらに食物繊維は大きく不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類に分類されます。
食物繊維は、以前は食べ物のカスとして重要視されていませんでした。しかし、食物繊維が持つ多様な働きが明らかになるにつれ、五大栄養素に次ぐ第六の栄養素として、その価値が見直されています。
図1:栄養素の分類と食物繊維の位置づけ

食物繊維の働きと種類
食物繊維は大きく「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」の2種類に分類され、それぞれ体内で異なる働きをします。
<不溶性食物繊維>
主な働き
・大腸で水分を吸収してふくらみ、腸壁を刺激することで、排便を促します
・腸内にたまった毒素やガスを便と一緒に排出し、おなかの調子を整えます
表1:不溶性食物繊維の代表的な物質の特徴・製法・原料
| 食物繊維名 | 特徴・製法 | 原料 |
|---|---|---|
| セルロース | 植物の細胞壁の主成分です。木材、綿花、麻などの植物繊維原料から製造されます。 | 木材、綿花、麻などの植物繊維 |
| リグニン | 植物の細胞壁に含まれる複雑な高分子です。木材や植物の細胞壁から抽出・製造されます。 | 木材、植物の細胞壁 |
| キチン | カニやエビなどの甲殻類の外骨格に含まれる多糖類です。強い繊維状構造を持ちます。甲殻類の外骨格から抽出・製造されます。 | 甲殻類の外骨格 |
<水溶性食物繊維>
主な働き
・大腸で乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌のエサになります
・過剰な糖質や脂質の吸収を阻害する働きをします
・腸内細菌による代謝の結果、短鎖脂肪酸が生成されます
表2:水溶性食物繊維の代表的な物質の特徴・製法・原料
| 食物繊維名 | 特徴・製法 | 原料 |
|---|---|---|
| ペクチン | 果物や野菜の細胞壁に含まれる多糖類です。ゲル化作用があります。主に果物から温水抽出され、製造されます。 | 果物(リンゴ、柑橘類など) |
| グルコマンナン | コンニャク芋由来の多糖類です。ゲル化作用があります。コンニャク芋から水抽出され製造されます。 | コンニャク芋 |
| アルギン酸/フコイダン | どちらも海藻から抽出される多糖類です。アルギン酸は増粘剤や安定剤としてもよく使われます。 | 海藻類 |
| 難消化性デキストリン | でん粉に酸を添加して加熱処理した後、酵素を作用させ加水分解をして製造されます。 | でん粉 |
| ポリデキストロース | グルコース、ソルビトール、クエン酸を加熱処理することによって製造されます。 | グルコース、ソルビトール、クエン酸 |
| イヌリン | チコリやキクイモ、ごぼう、玉ねぎなどに多く含まれる多糖類です。 | チコリ、キクイモ、砂糖 |
| イソマルトデキストリン | でん粉に酵素を作用させて製造されます。おだやかに発酵される食物繊維です。 | でん粉(コーンスターチなど) |
| 環状四糖 | 環状オリゴ糖の一種です。低分子で食品への応用が容易です。でん粉に酵素を作用させて製造されます。 | でん粉(コーンスターチなど) |
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維は異なる働きがあるため、どちらかにかたよるのではなくバランスよく摂りましょう。
コラム 1今、注目の「発酵性食物繊維」とは?
「発酵性食物繊維」とは腸内細菌によって発酵されやすい食物繊維のことです。腸内細菌のエサとなり、エネルギー源として利用される過程が「発酵」と呼ばれるため、このように呼ばれています。腸内細菌が発酵性食物繊維をエサにして作り出す「短鎖脂肪酸」が体に多様な良い効果をもたらすことが明らかになってきたため、注目が集まっています。
短鎖脂肪酸の主な効果
・腸内環境の改善:善玉菌の活動を促進し、腸内フローラのバランスを整えます
・エネルギー源としての利用:大腸上皮細胞の主要なエネルギー源となります
・免疫機能の調整:腸管免疫を活性化し、炎症を抑える働きがあります
・代謝改善、肥満予防:血糖値の上昇や脂肪の蓄積を抑えます
なおすべて食物繊維が腸内細菌のエサとなり発酵するわけではありません。発酵性食物繊維に該当するのは多くの水溶性食物繊維と一部の不溶性食物繊維です。また、発酵性食物繊維は種類や繊維の大きさによって、腸内で発酵する場所や、食べてから発酵がはじまるまでの時間が異なるため、様々な種類の発酵性食物繊維を摂ることが大事です。
図2:発酵性食物繊維の分類イメージ

<食品の発酵性食物繊維を知るには?>
食品に含まれる発酵性食物繊維の量は、文部科学省が提供する「食品成分データベース」で調べることができます。確認する際にはAOAC2011.25法による測定値に注目してください。
この測定法では、以下の3つの項目の合計が発酵性食物繊維量となります:
・AOAC低分子量水溶性食物繊維
・AOAC高分子量水溶性食物繊維
・AOAC難消化性でん粉
コラム 2低(Low)FODMAP認証とは
近年、腸内環境への配慮が高まる中で、腸に負担をかけにくい食品選びも重要視されています。その代表的な指標のひとつが「低FODMAP認証」です。
低FODMAP認証とは、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)など、腸の不調に悩む人が安心して食べられる食品であることを示す制度です。
<FODMAPとは?>
FODMAPは、腸で発酵しやすい糖質の総称で、以下の成分の頭文字を組み合わせたものです:

これらの成分は、小腸で吸収されにくく、大腸に到達すると腸内細菌によって発酵されやすい特徴をもちます。この過程でガスが発生し、腹部の張りや不快感の原因となることがあります。
<なぜ低FODMAPが必要なのか?>
過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)の患者にとっては、FODMAPの摂取が症状の悪化につながることがあります。そのため、腸内細菌によって発酵されにくい低FODMAP食が症状の管理に役立ちます。
食物繊維が豊富な食べ物
どんな食べ物に食物繊維は多く含まれているのでしょうか?
穀類・豆類
・玄米、雑穀米、オートミール
・大豆、あずき、ひよこ豆
野菜・きのこ類
・ごぼう、にんじん、キャベツ、ブロッコリー
・しいたけ、えのき、しめじ
果物
・りんご、バナナ、キウイ、いちじく
海藻類
・わかめ、ひじき、昆布

日々の食事に、食物繊維を多く含むこうした食材をバランスよく取り入れることで、腸内環境が整い、体の内側から健康をサポートします。また、食事だけでは十分に補えない場合には、サプリメントや機能性表示食品を活用するという選択肢もあります。
食物繊維1日の摂取目標量
日本人の成人では「少なくとも一日25g」の食物繊維を摂取するのが理想とされていますが、実際の平均摂取量は18g程度に留まっており、不足しています。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、この理想と実際の摂取量を加味し、年齢と性別に応じた目標量が設定されています。この目標量は、生活習慣病の予防のため、日本人が当面の目標とすべき摂取量です。
表3:食物繊維の1日の摂取目標量(日本人の食事摂取基準 2025年版)

食物繊維が不足した場合、多すぎた場合、それぞれの体の不調
食物繊維は健康維持に欠かせない栄養素ですが、不足しても過剰でも体に不調をもたらすことがあります。
表4:食物繊維の摂取状況(不足・過剰)による体の不調
| 食物繊維の摂取状況 | 体の不調 | 詳細な説明 |
|---|---|---|
| 不足した場合 | 便秘 | 腸内の内容物のかさが減り、腸の蠕動運動が鈍くなるため、便秘が起こりやすくなります。これは食物繊維不足の代表的な症状です。 |
| 腸内環境の悪化 | 食物繊維は善玉菌のエサとなり、腸内フローラのバランスを整える役割がありますが、不足すると善玉菌が減少し、悪玉菌が増えることで腸内環境が悪化します。これにより、肌荒れや免疫力の低下につながるとされています。 | |
| 生活習慣病のリスク上昇 | 糖質や脂質の吸収を緩やかにする食物繊維が減ると、血糖値の急上昇や高脂血症につながりやすくなります。その結果、糖尿病や心疾患、さらには大腸がんなどの生活習慣病のリスクが高まるとされています。 | |
| 肥満傾向 | 食物繊維は満腹感を持続させることで肥満抑制に役立ちます。特に水溶性食物繊維は水分を吸収してゲル状になり、胃の中で膨らむことで満腹感を感じやすくするため、不足すると食べ過ぎにつながる可能性があります。 | |
| 多すぎた場合 | お腹の張り・ガスの発生 | 水溶性食物繊維は腸内発酵によりガスを発生させ、このガスが腸内に溜まることで腹部が張った感じがします。食物繊維の過剰摂取による消化器系の不調として挙げられます。 |
| 下痢・腹痛 | 食物繊維の種類によっては、摂り過ぎると便がゆるくなり、下痢を引き起こすことがあります。腹部膨満感やガスの発生と並び、消化器系の不調として現れる可能性があります。 | |
| 便秘の悪化 | 不溶性食物繊維を過剰に摂取し、かつ水分を十分に摂らないと、便が硬くなり、かえって便秘を悪化させることもあります。 | |
| 栄養の吸収阻害 | 鉄分やカルシウム、亜鉛などのミネラルの吸収が妨げられる場合があります。 |
適量の食物繊維を、野菜、果物、豆類、全粒穀物などからバランスよく摂取することが大切です。
食物繊維の摂取量とがん死亡リスクについて
国立がん研究センターの大規模な追跡調査によると食物繊維の摂取量が多い人ほど総死亡リスクが有意に低下していることが示されています。
1995年から2016年までの約17年間にわたり、がんや循環器疾患の既往歴がない45~74歳の日本人約9万人を追跡調査しました。その結果、食物繊維の摂取量が多い人ほど、総死亡リスクが有意に低下していることが明らかになりました。特に男性では、総食物繊維量の摂取量が多いほど、がんによる死亡リスクが低下していました。
図3:食物繊維摂取量と男性のがん死亡リスクとの関連

出典:Katagiri R. ら Am J Clin Nutr, 2020;111(5):1027–1035,
DOI:https://doi.org/10.1093/ajcn/nqaa022
(CC BY 4.0:https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ ) のデータに基づいて当社作成。
各区分の境界値については、重複を避けるため、「<」「to <」を用いて数値範囲を明確化した。
また、食物繊維の摂取源別にみると、豆類・野菜類・果物類からの摂取が多い人ほど死亡リスクが低い傾向があります。
食物繊維の機能と表示
1. 栄養成分表示について
容器包装に入った一般加工食品及び添加物には、食品に含まれる栄養成分に関する情報(栄養成分表示)が記載されています。消費者が食品を選ぶ際に、バランスのとれた食生活や生活習慣病の予防に役立つ情報などを栄養成分表示から得ることができます。
- 表示が義務付けられている栄養成分
熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩相当量) - 表示が推奨されている栄養成分
飽和脂肪酸、食物繊維 - 任意で表示されている栄養成分
ミネラル(亜鉛、カルシウムなど)、ビタミン(ビタミンA、ビタミンCなど)など
2. 栄養強調表示について
不足や過剰摂取により健康の保持増進に関わる栄養成分は、基準に基づいて栄養強調表示をすることができます。食物繊維は、定められた条件を満たせば、「食物繊維たっぷり」など、栄養成分の量が多いことを強調する表示ができます。
図4:栄養強調表示の種類と表示例

3. 保健機能食品制度について
保健機能食品には、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品の3種類があります。国が定めた安全性や有効性に関する基準などに従って食品の機能が表示されています。このうち食物繊維が関連するものは、特定保健用食品と機能性表示食品です。
特定保健用食品(トクホ)
からだの生理学的機能などに影響を与える成分を含む食品で、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、お腹の調子を整えたりするのに役立つ、など特定の保健目的が期待できる旨を表示した食品。
特定保健用食品として販売するには、食品ごとに有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得る必要があります。
食物繊維が関連する表示には、お腹の調子を整える、糖の吸収をおだやかにする、食後の中性脂肪の上昇をおだやかにする、摂り過ぎたコレステロールの吸収を抑えるなどがあります。
※消費者庁の特定保健用食品許可(承認)品目一覧参照特定保健用食品について | 消費者庁機能性表示食品
事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られていますが、特定保健用食品とは異なり、国が安全性と機能性の審査を行ったものではありません。
食物繊維が関連する機能性では、中性脂肪、血糖値、整腸作用に関連する表示が比較的多くなっています。
※消費者庁の機能性表示食品の届出情報参照機能性表示食品検索栄養機能食品
1日に必要な栄養成分(ビタミン、ミネラルなど不足しがちな特定の栄養成分)の補給のために利用できる食品。国による個別の審査を受ける必要はなく、既に科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含んでいれば、栄養成分としての機能を表示することができます。
表5:栄養機能食品として表示可能な栄養成分
| 脂肪酸(1種類) | n-3系脂肪酸 |
|---|---|
| ミネラル(6種類) | 亜鉛、カリウム、カルシウム、鉄、銅、マグネシウム |
| ビタミン(13種類) | ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸 |
もっと詳しく知りたい方へ
「腸活における個別化栄養」
腸内にはビフィズス菌や乳酸菌をはじめ多様な細菌が在住しています(腸内フローラ)。
「腸活」とは、腸内環境(腸内フローラ)をより良い状態にするために食事に気を付けたり運動したりする活動のことで、腸内環境は、健康や美容、免疫、メンタルにまで影響を与えることがわかっています。しかし、同じ栄養をとっても腸内フローラには個人差があるため、現れる健康効果には差があります。そこで、腸内フローラや普段の食生活などをもとに一人ひとりに合った効果の高い食事方法を提案する「個別化栄養」が提案されています。
詳しくは、「エキスパートに学ぶ 第12回 個別化栄養による健康管理/國澤 純 先生」をご覧ください。
「脳腸相関」
腸の健康が脳やこころにも影響するってご存知ですか?腸と脳、この離れた2つの器官をつなぐのが腸内フローラの細菌が作る物質であると考えられています。近年、腸内フローラと認知症や「幸福ホルモン」とも呼ばれるセロトニンとの関りについて興味深い研究が報告されています。
詳しくは、「エキスパートに学ぶ 第1回 腸の話/森田 英利 先生」をご覧ください。
