第7回
嚥下食の話
食べやすく美味しい嚥下食で、
健康づくりと生きる喜びを
金谷栄養研究所 所長
金谷節子 先生
最近、「嚥下(えんげ)」という言葉を耳にする機会が多くなりました。口の中の食べ物を飲み下すことを意味する嚥下は、誰もが何気なく行なっているようで、実は複雑なメカニズムによって成り立っています。加齢とともにこの働きにも衰えがみられるため、高齢者では嚥下障がいが起きやすいとされます。近年食べやすく工夫された嚥下食の製品も充実してきましたが、その初期の開発はどのようなものだったのか、パイオニアとして嚥下食に取り組んでこられた金谷節子先生に伺いました。
「食塊」を知ることから始まった嚥下食への取り組み
金谷先生と嚥下食との関わりはどのように始まったのでしょうか?
液体を飲むための工夫から始まったとは意外です
金谷先生
普通に考えると、水が一番飲みやすいと思われるかもしれませんが、下記に示したように、飲み込みのメカニズムは非常に複雑で微妙なものですから、水やお茶などサラサラした液体は飲みにくいものなのです。これを飲みやすくするにはどうしたら良いかと取り組んだものの、当時は右も左もわからない状態。国内では参考にできるものがほとんどなく、アメリカの文献などを調べるうちに「食塊(しょくかい)」という概念を知ることになりました。食塊とは口に入れたものを飲み込むためにひとかたまりにしたもので、食事の際には誰もが口中で作っているのです。食塊が作れれば、嚥下障がいの方にも飲み込みやすくなる。そのために嚥下食は液体でも固形物でも、まとまりをつけることが重要だとわかったのです。
●摂食・嚥下の過程
私たちがあたりまえに行っている毎日の食事は、次のような5段階の過程を繰り返しています。 この一連の動きのいずれか、あるいは複数の段階で問題が発生する状態が摂食・嚥下障がいです。
1.先行期(認知期)
食べ物の形、硬さや温度などを判断する
2.準備期(咀嚼期)
食べ物をだ液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形状にまとめる(食塊を作る)
3.口腔期
舌の運動によって食塊を咽頭に移動させる
4.咽頭期
食塊をゴックンと飲み込み、咽頭から食道に送る
5.食道期
食道のぜん動によって食塊を胃に送る
金谷先生
私が栄養科長を務めていた聖隷三方原病院では、1980年代に入り認知症への対応が多くなっていました。その中で医師から、認知症の患者さんに造影剤を飲ませたい、という要望を受けたのです。認知症においても嚥下障がいの方は多く、どうしたら必要な量を安全に飲んでもらえるかを考えたのが嚥下食への取り組みの出発点となりました。