酵素による卵の乳化力向上 ~放線菌由来ホスホリパーゼA2の特長と洋菓子での減卵効果~

食品製造業に従事する皆様の中でも、酵素というものに馴染みのない方も多いのではないでしょうか。食品用酵素は改良剤などに含まれることが多く見えづらい素材ですが、製菓製パン・肉加工・乳製品分野を中心に、食感や味のデザイン・物性の改良・原材料の有効利用・フードロスの削減などに貢献しています。こちらのページでは、NAGASEグループの卵加工用酵素「デナベイクRICH®」の機能と、洋菓子における減卵効果をご紹介します。

デナベイクRICH®で解決できること

  • ☑パン生地のベタつき低減による作業性・歩留り向上

  • ☑スポンジケーキなど気泡安定化でボリュームをキープ

  • ☑ロールケーキの老化抑制で柔らかさキープ・生地割れの防止

  • ☑減卵によるコスト削減

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    製菓・製パンへの効果検証

    実際に製菓製パンにおいてデナベイクRICH®を使用した時の効果をご紹介します。卵を配合するケーキやパンで乳化剤的な働きをし、主に4つの効果が期待できます。また、酵素はたんぱくであり添加量も少ないため、味を変えることなくこのようなメリットを得ることが出来ます。具体的に見ていきましょう。

    1. パン生地のベタつき低減

    こちらは卵を使用したパンの事例ですが、同じようにミキシングした際の生地のまとまりが、酵素を添加することで良くなります。卵に対して0.2%添加するだけで、作業性が大幅に改善するだけでなく、歩留まりの向上にもつながります。

    2. スポンジケーキでの気泡安定化

    デナベイクRICHを配合してスポンジケーキの生地を立てると、乳化が強くなるため左下の写真のようにキメが細かくなります。また、右下の写真のように、この生地を20時間置いて状態を確認しても、RICHを配合した物は分離が少なく細かな泡を保っていることがわかります。

    実際に、焼成した際の写真が下になります。生地を調整後すぐに焼いたものと比べて、30分、1時間経過後に焼くと、酵素を添加していないコントロールでは、ボリュームのダウンが認められました。

    その一方で、デナベイクRICH®を添加した生地で焼成したケーキでは、これらの時間が経過した生地でも、生地調製直後のケーキと同等のボリュームを示しました。このようにデナベイクRICHは気泡を安定化する効果があり、生地の仕込み量を増やしても最後まで一定の品質で焼くことができます。 デナベイクRICH®による気泡の安定化効果、ボリュームアップの効果は、抹茶のような生地が浮きにくくなる素材が入っている場合でも効果が認められます。ボリュームアップだけでなく、柔らかさや口どけの向上にも効果が期待できます。

    3. ロールケーキでの老化抑制

    以下のグラフは機器分析でロールケーキ生地の柔らかさを測定したデータです。

    コントロールと比較して、デナベイクRICH®配合の方が柔らかく、また、焼成6日後でもその柔らかさが持続していることがわかります。 しっとりとやわらかい生地になるため、写真のようにロールケーキなどを巻く際にも割れを防ぎロスを削減することが出来ます。

    4. パウンドケーキでの減卵

    デナベイクRICHを使用して頂くことで、ケーキに使用する卵を減らすことが可能です。 こちらはパウンドケーキでの使用例になります。

    効果を実現する酵素のはたらき

    ここまでデナベイクRICH®の効果をご紹介しました。では、デナベイクRICH®がなぜそのような効果を発揮できるのでしょうか。その理由は酵素の作用にあります。ここでは、その作用メカニズムを詳しく解説します。

    酵素とは ~酵素の基礎~

    酵素は触媒機能を持つタンパク質で、食物の消化やエネルギー生成などに不可欠です。産業においては、微生物や植物が体内に持つ有用な酵素を取り出し精製したものが、酵素製品として活用されています。 酵素の特性として重要なのは「基質特異性」と熱やpHの影響による「失活」です。基質特異性は特定の基質構造を認識して反応を触媒することで、目的に応じて酵素を使い分けることで、食品加工の新たな可能性を広げることができます。

    一方、酵素はタンパク質であるため熱やpHにより変性し、触媒としての機能を失います。酵素が加工助剤として使用される場合、最終商品への表示は免除されます。消費者の意識の高まりからクリーンラベルが求められる今、食品用酵素の活用が注目されています。

    こちらの動画をご覧いただくと食品用酵素の理解を深めることができます。

    ホスホリパーゼA2

    デナベイクRICH®は、ホスホリパーゼA2(PLA2)という酵素を含む製品です。ここでは、このPLA2の機能について解説します。 PLA2はホスホリパーゼの一種で、リン脂質であるレシチンを加水分解し、脂肪酸が1つ外れたリゾレシチンを生成します。レシチンは卵黄や大豆に豊富に含まれ、水と油となじむ両親媒性の分子を持つことから、乳化剤としての性質を持ちます。これがPLA2によりリゾレシチンへ変わると、その乳化力は更に強まります。親油基部分が小さく、親水基部分が大きくなるため、リゾレシチンはレシチンよりも水に溶けやすく乳化する力が強いのです。

    以下の図のように単純にモデル化すると、オレンジの波線部分が親油性を、青い丸部分が親水性を表します。

    以下の図のようにレシチンは親水基を内側に向けて結合し、マーガリンやチョコレートの乳化に適しています。一方、リゾレシチンは親油基を内側に向け、マヨネーズやアイスクリームの乳化に適しています。

    そしてケーキバッターやパン生地の乳化も、水の中に油を含むタイプです。そのため、PLA2を卵と一緒に使用すると、卵に含まれるレシチンがリゾレシチンに変化し、乳化力が向上します。

    NAGASEの放線菌由来PLA2製品の特長

    NAGASEグループの酵素製品は、その特長から安心・安全にご使用いただける製品となっております。 酵素製品の主な特長を4つご紹介します。

    1. 失活が容易:熱処理により失活しやすい特徴があります。

    2. 副反応のリスク低減: 当社独自の技術により、特定の酵素だけを取り出すことが可能。これにより、他の酵素が混入することによる副反応のリスクが大幅に低減されます。

    3. 非遺伝子組み換え扱い: 当社の酵素製品は食品衛生法に基づく安全性審査を通過し、日本国内においては非遺伝子組み換え扱いとなっています。

    4. コーシャ・ハラール対応製品: コーシャ・ハラールの宗教対応を行っております。

    NAGASEの酵素事業

    NAGASEグループの酵素製品はナガセバイオイノベーションセンター、林原、長瀬産業の3社が連携して研究・製造・販売を行っております。 ナガセバイオイノベーションセンターはNAGASEグループの研究開発の中核を担っており、主に微生物の探索・設計を行い、まだ世の中にないユニークな酵素製品を探し、日々研究を行っております。 有用な酵素があれば、メーカーである林原で量産化を行います。工場はコーシャ・ハラル対応の製造棟を有しており、世界中のお客様に安心してご使用頂ける製品の製造に努めています。また、アプリケーションラボも有し、酵素の使い方のご提案や測定試験などを行い、お客様の課題解決をサポートしています。酵素を用いたソリューションの提案や海外法規制の調査も行い、お客様の製品開発や販売のサポートをさせて頂いております。

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