第4回
血管の話
はじめよう、「血管力」向上生活
地方独立行政法人りんくう総合医療センター 病院長 / 大阪大学大学院医学系研究科 総合地域医療学寄附講座 特任教授
山下静也 先生
予防のためにもまず禁煙。
そして週に3日以上の運動を
生活面で気を付けなければいけない点は何でしょうか?
運動することでどのような効果がありますか?
山下先生
適度な運動は極めて大切であり、続けることである程度動脈硬化の進行が抑えられるといわれています。これは、運動によって中性脂肪が下がり、HDL-Cが上がるという脂質への効果や血管の内皮細胞の機能が改善して障害が起こりにくくなったり、血管の拡張作用が生まれたりといった様々な要素が関係していると考えられています。また、体重を増やさない意味で、特にメタボ体型の人は内臓脂肪を減らすためにも有酸素運動が重要になります。
どのような運動をどのくらい行えばよいのでしょうか?
山下先生
適度に汗をかくくらいの有酸素運動を中心に、できれば毎日30分程度、最低でも週に3日程度を目標に行うことがよいとされています。運動の強度は中等度(普通の速度での歩行程度)以上で、具体的にはウォーキングやサイクリング、スロージョギング、のんびりと泳ぐなどの有酸素運動を「ややきつい」と感じるくらいで行うとよいでしょう。
おいしいお肉に舌鼓、
でも血管は泣いているかもしれません
食事について心がけるべき点はどのようなものですか?
山下先生
食べ過ぎず、適正体重を維持することが肝心です。そして、悪玉LDLを増やさないために食事の中で摂る脂質に配慮するようにしましょう。動物性の脂質のうち、牛や豚、鶏肉の脂身には「飽和脂肪酸」と呼ばれる脂質が多く含まれていますが、これを多く摂り続けているとLDL-Cが増えてしまいます。一方魚に多く含まれている「n-3系多価不飽和脂肪酸」は、同じ脂質でもLDL-Cを増やさず、中性脂肪の合成を抑えて減らし、動脈硬化を防ぐ効果があります。ですから肉よりも魚という日本人が昔から親しんできた食生活が血管の健康に良いといえます。
また、肉の脂身を控えることには、食品からのコレステロール摂取を減らす意味もあります。飽和脂肪酸の多い食品は一般的にコレステロールも多いので、その点でもLDL-Cを上げてしまう要因になります。肉以外にも、卵の黄身や魚卵等もコレステロールを多く含むため、摂り過ぎに注意です。
中性脂肪にはどんな配慮をしたらよいですか?
山下先生
中性脂肪が高い人へのアドバイスとしては、炭水化物を抑えるためにお菓子類や糖分の多い飲料、穀類、果物といった食品を控えめにすることや、アルコールを摂り過ぎないことなどがあります。ただし、中性脂肪が高くなっている原因にはいくつかのタイプがありますので、食事療法として行う場合は自分の原因が何かを調べてもらったうえで、制限すべきものが炭水化物なのか、アルコールなのか、あるいは摂り過ぎなのかを知ることが重要です。
他にも血管のために食事でできることはありますか?
山下先生
海藻、野菜(根菜)、大豆製品など食物繊維の多い食品を多く摂ることをこころがけましょう。食物繊維はコレステロールの吸収を抑える働きがあり、これを多く摂ることによってLDL-Cを下げる効果が期待できます。
また、最近では柑橘類の皮などから抽出されるポリフェノールの一種であるヘスペリジン(糖転移ヘスペリジン)に中性脂肪を低下させる作用があることがわかってきました。日頃の食生活の改善を基本に、こういった効果の確かめられた成分を摂取するのもよいでしょう。
血管力を落とさないために、今日から始められることがたくさんありそうです。
本日は様々なアドバイスをいただき、ありがとうございました。
取材日:2017.8.3
■参考
動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善
- ・禁煙し、受動喫煙を回避する
- ・過食と身体活動不足に注意し、適性な体重を維持する
- ・肉の脂身、動物脂、鶏卵、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
- ・魚、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆製品、未精製穀類の摂取量を増やす
- ・糖質含有量の少ない果物を適度に摂取する
- ・アルコールの過剰摂取を控える
- ・中等度以上の有酸素運動を、毎日合計30分以上を目標に実施する
動脈硬化性疾患予防のための食事指導
- ・総エネルギー摂取量(kcal/日)は、一般的に標準体重(kg、(身長 m)2×22)× 身体活動量(軽い労作で25~30、普通の労作で30~35、重い労作で35~)とする
- ・脂質エネルギー比率を20~25%。飽和脂肪酸エネルギー比率を4.5%以上7%未満、コレステロール摂取量を200mg/日未満に抑える
- ・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やす
- ・工業由来のトランス脂肪酸※の摂取を控える
- ・炭水化物エネルギー比を50~60%とし、食物繊維の摂取を増やす
- ・食塩の摂取は6g/日未満を目標にする
- ・アルコールの摂取を25g/日以下に抑える
※トランス脂肪酸には天然に含まれるもの(牛肉や羊肉、牛乳および乳製品など)と工業的に油脂を加工(水素添加)および精製(脱臭または高熱処理)する過程で生成されるものがある。
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』(日本動脈硬化学会)より引用
山下静也 先生
地方独立行政法人りんくう総合医療センター 病院長 / 大阪大学大学院医学系研究科 総合地域医療学寄附講座 特任教授
略歴
- 1979年
- 大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部附属病院ジュニア非常勤医員
- 1980年
- 市立豊中病院内科医員
- 1982年
- 大阪大学医学部附属病院第二内科勤務
- 1988年
- 米国シンシナティ大学医学部病理学教室動脈硬化部門 客員研究員
- 1991年
- 大阪大学医学部附属病院第二内科勤務
- 1992年
- 大阪大学医学部助手
- 1993年
- 米国コロンビア大学医学部内科分子生物学部門客員研究員
- 1995年
- 大阪大学医学部付属病院第二内科 講師
- 2000年
- 大阪大学大学院医学系研究科分子制御内科学助教授
- 2005年
- 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学助教授(准教授)
大阪大学医学部附属病院 循環器内科 病院教授(併任) - 2013年
- 大阪大学大学院医学系研究科総合地域医療学寄附講座 教授
- 2015年
- りんくう総合医療センター副理事長兼病院長・大阪大学大学院
医学系研究科総合地域医療学寄附講座 特任教授(併任)
現在に至る
主な研究歴
- 粥状動脈硬化症の成因
- リポ蛋白代謝異常症
- 肥満症の臨床と分子生物学
役職
- 日本動脈硬化学会理事長
- 国際動脈硬化学会アジアパシフィック連合会長
- 日本内科学会近畿支部副支部代表
山下先生
まず、禁煙です。喫煙は動脈硬化性疾患の原因の中で防ぐことのできる最大のものであると考えられ、とくに動脈硬化が始まっている人、あるいはLDL-Cが高いだけでも禁煙は必須です。もちろん予防の観点からも重要であり、昨今問題になっている受動喫煙も冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクを1.3倍〜2倍増加させるといわれますので、極力避けるよう努めたいものです。
これに加えて運動や食事など生活習慣の改善を心がけるとよいでしょう。