エキスパートに学ぶ 第11回 持続可能な社会の創造

第11回

持続可能な社会の創造

「人類と地球の健康(プラネタリーヘルス)」
を軸に考える、持続的な共存への道

岡山大学 上席副学長 特命(グローバル・エンゲージメント戦略)担当

横井篤文 教授

SDGsという単語が一般向けのマスコミ媒体でも取り上げられ始め、サステナビリティ/持続可能性は誰もが関わりのある身近なテーマとして広がりをみせています。今回はあらためてこのテーマを理解するために、現在岡山大学でSDGs大学経営に邁進されている横井篤文先生にSDGsの意義や食の分野における今後の課題などについてお話を伺いました。

【大学での取り組み】
全国に先駆けて開始されたSDGs大学経営

横井先生が現在上席副学長を務められている岡山大学は「第1回ジャパンSDGsアワード」の特別賞を2017年に受賞されています。岡山大学での取り組みのお話からうかがえますでしょうか。

横井先生

まず、岡山地域の特徴からお話した方がわかりやすいかと思います。岡山は国内はもとより、世界的にもESD(持続可能な開発のための教育)に取り組む先進的な地域の一つといわれます。国連大学では世界で約180か所のESDに関する地域の拠点(RCE)を認定していますが、岡山地域は2005年に世界で最初のRCE拠点の一つとして認定されています。さらにESD活動については行政や企業、大学、各種団体など250に及ぶ組織と連携して推進しており、つまり世界に先駆けたESD活動、そして世界とつながりながら地域に根差した産学官連携という2つの基盤が岡山にはあります。岡山大学では、この基盤を財産とし、さらに進化発展させてSDGsに繋げていこうという形で2017年に旗揚げしました。これを一言でいえば、「ありたい未来」を考えるために、サステナビリティとウエルビーイングを追究する総合研究大学となり、人材育成や社会イノベーションによって世界と地域に新たな価値を創造していこうというものです。この活動が評価されてジャパンSDGsアワードの受賞に繋がったと思います。

コラム 1「ESD」をご存知ですか?

Education for Sustainable Developmentの略で、「持続可能な開発のための教育」と訳されます。ESDは持続可能な社会のつくり手を育む教育であり、地球に存在するすべての生命が未来にわたってその営みを続けていくために、環境や貧困、人権など地球規模の様々な課題を自らの問題として主体的に捉え、自分にできることを考えて実践していくことを身につける。そして、課題解決につながる価値観や行動を生み出し、持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動です。
ESDの発祥は、2002年に「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で当時の小泉総理大臣がその考え方を提唱したことに始まりました。以降、日本はESD推進の牽引役となって世界に発信し続けてきました。そして近年、SDGsの動きとともにESDの注目度が格段に上がりつつあります。SDGsの目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯教育の機会を促進する」の中の具体目標であるターゲット4.7に位置づけられるとともに、SDGs全体への貢献を目指した「ESD for 2030」という国際的な枠組みが生まれ、全世界の教育の場でESDを取り込んでいこうという流れが強まっています。

参考:文部科学省ホームページ(ESD:持続可能な開発のための教育)
https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm

岡山大学ではESD活動をSDGsに結びつけ、さらに拡げてこられたということですね。

横井先生

はい。そして岡山大学の活動でもう一つ重要なのが「SDGs大学経営」の推進です。企業ではSDGs経営がよく取り上げられますが、その大学版であり、「SDGs大学経営」という言葉を用いたのは岡山大学が最初とされています。具体的にはSDGs達成を大学経営の中核に据え、教育・研究・社会貢献について産学官連携を通して一体的に改革しながら、特にマルチステークホルダーとのエンゲージメント(貢献しようとする志や関係性)を強化して、大学の特色と強みをさらに際立たせて社会のニーズとマッチングさせながら新たな事業モデルを展開する。そして財源の多様化を図りながら、同時に自律的な大学経営を実現していくというものです。

SDGs大学経営における横井先生の役割とはどのようなものでしょうか?

横井先生

それをご説明するには4つのキーワードをお示しすると理解しやすいでしょう。それは以下のようになります。

  1. 1. backcasting(バックキャスティング)

    将来のあるべき姿を考え、それを共有して現在をみる

  2. 2. outside-in(アウトサイド-イン)

    社会課題を外側から内側(大学の中)に取り込んでいく

  3. 3. open innovation(オープン イノベーション)

    課題解決のために多様なステークホルダーと共創し、参画を促す

  4. 4. social implementation(ソーシャル インプリメンテーション)

    新たな価値を社会に実装していく

この4つのフェーズを教育・研究・社会貢献のプロジェクトでクルクルと回していく、というのがSDGs大学経営のイメージです。ここで私が果たしているのは、グローバル・エンゲージメント戦略担当という肩書きが示すとおり、国際社会や地球規模の課題、世界的な動向をまずとらえて、それを岡山大学の強みや特性にマッチングさせる活動を統括する役割です。上記フェーズのバックキャスティングとアウトサイド-インに重なるものといえるでしょう。
具体的な例を挙げますと、教育においては国連で採択された「ESD for 2030」という10年間のプロジェクトにおいて、様々な世界的トレンドや潮流を岡山大学の強みや特性とマッチングさせ、地域から世界へ発信し、貢献するための戦略と事業構想を創出していく。あるいは2021年から始まる国連総会で採択された「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」に貢献すべく、全国に30余り点在する大学付属の臨海実験所の幹事大学を務める岡山大学では、それらの基盤を連携および活用しながら、日本の海洋科学を世界に発信するための戦略を立てるなど、多彩な側面で活動を推進しています。

コラム 2おさらい「SDGs」

時代のキーワードとして脚光を浴びるSDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称であり、2015年に開催された国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。2030年までに達成すべき17のゴール(目標)・169のターゲット(具体目標)から構成されています。
SDGsの前身として2015年まで取り組まれていた「MDGs(ミレニアム開発目標)」は主に発展途上国向けの目標でしたが、SDGsは先進国を含めたすべての国が一丸となって取り組むべきユニバーサル(普遍的)な目標であり、「誰一人取り残さない」世界の実現を目指しています。

17の目標がアイコン化されたSDGsポスター

2030年までの取り組みも半ばに近づいた現在、その達成状況を横井先生に伺うと、「グテーレス国連事務総長も発言していますが、全体として非常に厳しい状況にあります。さらに新型コロナの感染拡大も影響し、様々な分野で達成が難しくなっています。しかし、あくまでも我々は歩みを止めず、むしろ加速させていく気持ちでムーンショット型のイノベーションを進めていく必要があるでしょう」との、言葉が返ってきました。